ふたつのハート
今日はセイカくんがいる為か、女性客が多い感じがする。
すると
黒のパンツに白いシャツ、その上に黒のベストを纏ったウエイターの長身の人が、トレイの上にグラスを乗せ、カウンターの中から出て来た。
彼に気がついた女性客は皆、その人に視線を送っている。
中には、彼の歩く方向へと振り返りながら、ずっと見ている人も…
私も見惚れていた。
…?
あれって、セイカくん!?
学校の制服姿と違い、年上の男性に見えたから、良く分からなかった…
セイカくんが近づいてくるに連れて、私の目線は、だんだん下がっていった。
「お待ちどうさまでした、レモンティーで間違いございませんか?…では、ごゆっくり…」
「あ、はい…」
あんなことがあって私、顔を上げる事が出来なくて、セイカくんの顔を見ることがきない…
その時だった
セイカくんは俯いている私に向かって、優しく囁いてくれた。
「奈々瀬…待ってて、後でまたくるから…」
呼ばれて私、一瞬、セイカくんの顔を見てしまった。
優しい瞳で、私に微笑んでくれたセイカくん
一瞬で何も話せなかったけれど、セイカくんの優しい気持ちが伝わってきた。
セイカくんのおかげで
龍咲さんのことや山代くんのこと…
今は忘れられそう…
セイカくんは軽くお辞儀をすると
またカウンターへ戻って行った。