拾い恋(もの)は、偶然か?




「あのさー、古蝶って部長と結婚するつもり?」

「へっ?」




サーモンのカルパッチョを口に含んだ私に、突然の質問。それはあまりにも重い質問で、咀嚼する余裕すらなくなるほど。


「いや、もういい年でしょ。古蝶も部長も。」

「……。」


部長と結婚、なんて。


「考えたこともないわけないでしょう。」

「正直か。」


当たり前だ。妄想の上ではいくらでも想像してやったぜ。あんなにかっこいい旦那さんが家に帰ってくるのを、私はごちそうを作って待ってて、「ただいま、音。」なんて。ここがアクセント。ちゃんと名前は呼び捨てなわけよ。


脱いだスーツの上着を受け取って、席についた部長のご飯をよそう。温めた味噌汁を出す頃には、部長は私のご飯を口いっぱいに頬張っているというわけだ。




「おい。妄想終わり。」

「すみません。」



先輩がお題を出したようなものなのに。もう1杯目のビールを飲んでしまい、新しく来た2杯目を手に持っている先輩をじっとりと見つめた。



「それがさー、噂があるんだよね。」


スルーかい。


どこかを見つめていた先輩は、ため息を吐いて。見上げた視線は険しかった。



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