拾い恋(もの)は、偶然か?
次期社長
「音、お待たせ。」
「……。」
私に向かって両手をあげてみせているのは、久しぶりに一緒に帰ることになった、部長。
「何がお待たせなんですか?」
「とりあえずおいで。」
「何がお待たせなんですか?」
もう一度繰り返せば、諦めたらしい部長が残念そうに手を下げた。それはそうでしょう?ここはまだ会社の駐車場で、ちらほら他の社員も見かける時間帯なんだから。
珍しく定時で上がれた部長。勿論私にも残業なんてなく、私たちはこれ幸いとエレベーターに乗り込んだのだ。
「とりあえず。」
「はーい。」
部長の合図で車に乗り込んだ。初めは助手席のドアを開けてくれていた部長だけど、今はそんなことしない。それがなぜか嬉しいのは、二人でこの車に乗ることに慣れた証みたいなものだからだろう。
とりあえずシートベルトを着けて部長を見れば、相変わらずのニコニコ顔がこっちを見ている。
「教えてくださいよ。なにがお待たせなんですか?」
だから私も思わず、笑顔でそう聞けば、部長の手が私の手を握る。少し回りを気にしたけど、下の方で手を繋ぐくらい見えないか、なんて。そう思った時点で自分もずいぶん部長を恋しがっていたんだなと確信した。