拾い恋(もの)は、偶然か?
「これ、全部行くんですか?」
「もちろん。」
「ほんとに?」
「ああ。」
部長のニコニコ笑顔が、少しずつ近付いている、気がする。あ、まつ毛長い。一日仕事してるのに鼻もテカってないし。肌まで綺麗!なんて、思っている場合じゃない!
「部長!」
「……なんだ?」
唇が合わさるまで、あと数センチ。間近で見る怪訝な表情も素敵。
「部長と色々行けるのはありがたいんですけど。」
「ああ。」
「もうちょっと、時間かけてゆっくり行きません?」
「なんでだ?」
「うーん、毎週行くと疲れちゃいますし。」
話している間も、少しずつ顔を離しているはずなのに、なぜか全然広がらない距離。部長のゆったり高級車の広さを持ってしても、近付く部長を抑えることはできない。
もはや壁ドン。いや、車の壁ドン?首の後ろを通る部長の逞しい腕から、部長の香りがする。そして私の手を包む反対側の手は、力強い。
ここ、会社なんですけど。
そう思うのになんでだろう。部長の魔力には逆らえないらしい。
「そうだな。いつでも行けるな。まだ先は長い。」
「そう、ですね。」
私たちには先がある。部長がそう思っていることが嬉しい。