拾い恋(もの)は、偶然か?



「っっ、そうじゃなくて。もういいわ。」

松崎さんは、なぜか私を睨みつけたまま突然立ち上がって、自分のトレイを私の前へ滑らせた。


「衛さんとは幸せになるから。」

「はぁ。」

とりあえず、衛とどうのこうのは置いておいて。

「……なんで私が?」

「古蝶の分は部長が持って行っちゃったからじゃない?」


すでに呼び止められる範囲を抜け出している細い背中に悪態をつきたくなる。なんで私が松崎さんのトレイを返さなくちゃいけないわけ?

「何を怒ってるんだか。わけわかんないわね。」

「ですね。」


松崎さんは、感情の起伏が激しい人だと思う。彼女はよく言えば天真爛漫、悪く言えば少々自分勝手だ。こうして振り回されてイラつくこともあるけど、一緒にいてて楽しいのが悔しい。


「先輩。ほんとに何かあったら相談してくださいね。」

「大丈夫。今んところは悩んでる暇ないから。」


お互いにトレイを持って立ち上がれば、鳴海先輩は困ったように笑った。

確かに。私たちは、前の彼氏がダメでした、はい次、なんて年齢はもう過ぎている。もう結婚だって考える年齢の恋愛は、人生を賭けた死活問題でもあるんだ。


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