拾い恋(もの)は、偶然か?




それは金や地位だけを見ている女性よりも貪欲で、厄介だ。


そしてその"愛"に賭ける覚悟も、彼女たちをはるかに凌ぐ。


音の気持ちを感じた時、俺は彼女に一瞬で恋に落ちた。


本当に偶然だった。あの日給湯室へ行ったのはたまたまで、音が俺のことを話していたのもたまたまだっただろう。


その時彼女の話を聞いていなければ、俺は音のことを好きになっていなかったかもしれない。



偶然じゃないかもしれない。音が仕組んで会話を聞かせたということも十分ありうる。俺は知っている。目的のためなら何でもする女の浅ましさを。


だけど、あの時のことが偶然じゃないとして。


誰がそれを聞いて恋に落ちるだろう?


自分でも特殊だと思う。正直すぎる音の気持ちに自分の心が動かされたなんてありえないとさえ思う。


だけど俺が偶然拾った恋は、どうやら本物だったらしい。


「音。」

「ん?」


腕の中で安心しきって笑うこの恋を、失いたくはない。


「好きだよ。」

「私も。」


好きだと言ったら、それ以上に好きだと言ってくれる。抱きしめばもっと強く抱きしめ返す。音は、俺よりも男らしいのかもしれない。



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