拾い恋(もの)は、偶然か?





「っっ、」



少しずつ近付いていく距離は、吐く息が当たるほどに近い。


こんなにもこの人を近くで見たことはない。それもそのはず。部署の上司、それも部長となると、遠目に見るのすらレアだ。


私をジッと見つめる切れ長の目に潜む黒い瞳も、日本人にしては高い鼻も、そしてキスの上手いらしい唇も、そのどれもが均整が取れていて、私の胸を刺激する。


見た目はドストライク。仕事ができるところも、へたくそな笑顔も、冷たい目も、全て……



「古蝶 音(こちょうおと)。俺の女になりなさい。」

「……。」


そんな男が、至近距離で命令する。私が思いつく以上の、最高のシチュエーションだ。


これが、夢なら。きっとあっさりOKするだろう、けど。


「無理、です。」

「……。」


その夢はあまりにも尊大すぎて、逆に胡散臭い。


「どうして?」


ああ、部長の目が笑っていない。もはや私もこの人が好きなことはバレバレ。だけどこの告白にあっさりOKしちゃだめな気がする。


「どう、しても、す。」

「……敬語がなってないね。」


ピクリと眉を上げたこの人。司馬翔吾(しばしょうご)は、この会社の御曹司で、帰国子女で……ああ、なんだっけ?


「ん、」


何かを考える隙を与えずに、一瞬でゼロになった距離。触れたキスの上手いらしい唇は、その技術がどれほどかを確かめる前に離れた。


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