拾い恋(もの)は、偶然か?
唇を読むなんてテレビですら見た事ないんだけど。この人の中には更にどんな怖いスキルが眠っているのか、考えただけでも怖かった。
とりあえず、部長の見える範囲で下手な話はしないようにしようと心に誓う。
「まいったよあの後、総士さんが不機嫌でね。」
「そりゃそうでしょう。」
だから松田部長は始終機嫌が悪かったのかと合点がいった。そりゃそうだよね。冷凍枝豆を出すような店にこの人たちがいつも出入りしているとは思えない。
「ああして無理をすると、音にはバレてしまう。だから正攻法で行くことにしたんだ。」
「え、じゃ、嘘っていうのは……。」
「ああ。この間の飲み屋で偶然っていうのが嘘。」
にっこり笑顔で薄情した部長に呆れてしまった。確かにあれは嘘というのかもしれないけど、正直駆け引きにもなれていない作戦だったような気がする。
百戦錬磨の司馬部長ともあろう人が、あの程度の作戦しか思いつかないなんて。ちょっと可愛いと思ってしまったり。
「これまでの女性に使ってきた陳腐な作戦なんて、君には通用しないと思った。音は俺と会社で関わるのを嫌うだろ?だから偶然を装ってまず飲み会でお近づきにと思ってね。」
「なにそれ。大学生じゃないんですから。っっ、」
思わずツッコんでしまって咄嗟に口を塞いでも、後の祭り。チラリと部長を見たけれど、ばっちり聞こえていたらしい。