拾い恋(もの)は、偶然か?
「ふふっ、嘘です。部長がそんな不誠実なことする人だとは思ってませんから。」
「あ……そう。」
安心したように盛大に溜息を吐きだしたこの人を、かなり可愛いと思ってしまったり。なんだかとても、うん、好きだと思った。
「音、俺と付き合ってみないか。」
部長が私を誘惑する。今度はまるで子犬のように、目を潤ませて懇願する。強気に出たり弱気に出たり、こういうのをきっと、駆け引きだと思う人もいるんだろうけれど。私には、まっすぐに私を見る部長がそんな器用なことをしているとは到底思えない。
「はい。よろしくお願いします。」
だから、口をついて出た言葉は、真摯に私に気持ちで向き合ってくれたお返し。ものすごく、びっくりしてるけど。
「部長?」
「え。」
会社の御曹司で、仕事ができて、かっこいい司馬部長。いつも笑顔だけど目が笑ってないとみんな口を揃えて言う。笑顔の部長に"睨まれれば"たちまち、みんな必死に仕事をするほど、部長は厳しくて怖い人だった。
だけどそれだけじゃない。部長はとても部下思いで、みんな部長のことを慕っている。
人望も、容姿も経歴もパーフェクトな人なのに。みんなの憧れの秘書課の美人と付き合える人なのに。それなのに不器用なこの人は私を好きだと言ってくれる。
それなら私も。この関係に未来がないと分かっていても、気持ちのまま、この人に向き合ってみてもいいんじゃないかと思った。