拾い恋(もの)は、偶然か?






「貴女が、古蝶音さん?」

「はい、そうですけど。」


会社の美女に声をかけられた。見事に引かれたアイライナーがこの人の気の強さを表しているようで、なんとなく苦手だと思った。


「なにか?」



あからさまに品定めしているその目に気付かないふりをして営業スマイルでそう言ってみても、肝心の目の前の美女は答えてくれる様子はない。


「すみません、仕事中なので失礼します。」


とりあえず、ここは早期離脱が懸命だと判断して脱出を試みたけれど。


「彼は、優しい?」

「……。」


やはり食らう羽目になるらしい。


「誰にでも優しい人なの。勘違いしないでね。」


元カノからの、先制パンチ。


背中でそれを聞きながら考えた。これはどんなリアクションをすればいいんだろうと。


『どうも、気を付けます。』

ビンタ食らうかも。



『貴女には関係ないでしょ。』

これもビンタコースな気がする。


ここは、不安たっぷりです、と自分を装ってみるか。いや、私にそんな演技力も度胸もない。


結局私が選んだ言葉は。


「肝に銘じます。」

「は?」


地雷を踏んだ。


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