拾い恋(もの)は、偶然か?
部長と決めたのは、私たちが付き合っていることは、知り合い以外には話さないということだけ。
私としては、部長には悪いけど彼の歴代の彼女たちみたいに彼との関係を言いふらすのは良くないと思っている。部長が彼女たちと別れたあとの退職率を大幅に上げているのが、我慢できなかった彼女たちが自ら漏らしたそれがきっかけで酷い目に遭っていたからだ。
やっかみ、僻みは当たり前。人によっては笑えない虐めにまで発展していたのを噂で知っている。
うちの部署は規模が大きいから、平の私と部長の間には係長と課長がいて、部長と会えるのは会議と朝礼くらい。あとは書類を持っていったり、仕事を頼まれたりと、ほぼ細かい雑事だけだ。
だから、業務中に抱き合ったりでもしない限り私たちの関係がバレることはないだろう。
それに、うちは恋愛禁止ではないけど、少し遠いとはいえ司馬部長は同じ部署の上司なわけで。変な勘繰りでもされたら仕事にも影響が出かねない。
それなのにいち早くけん制してきたこの人は、秘書課の松崎若菜(まつざきわかな)さん。長い黒髪をきっちりとポニーテールにしている、健康美女。司馬部長の噂の最後の人。
"現彼女"と噂されている人だった。
もちろん、その辺のことは昨日公園で聞いた。付き合っていると聞いている、とストレートに。
「貴女、結構な性格してるのね?」
この目の前で頬を引くつかせている人と付き合っていたのは事実。だけどある理由でとっくに別れていると、きっぱりと否定されたばかり。
そのとっくにのとっくにが、どれくらい前なのか気になる。だってこの人は明らかにまだ未練がある感じだし。
「でも残念ね。彼と結婚するの。私。」
こうして耳元で自信満々にそう言うこの女性が、ようやく決心して付き合いだした翌日に私をどん底まで落としてくるのだから、きっと部長との関係はとても深いものだったんだろうと、簡単に想像がついた。