拾い恋(もの)は、偶然か?
「部長、食堂初めてじゃないですか?」
私のデータでは、部長は一度も食堂に来たことはないはず。きっと執務室で高級弁当とか会食なんだろうって、噂をされていたから間違いないはずだ。
「音がいたからね。」
「っっ、」
部長がふわりと優しく笑う。その笑みは周りをざわつかせ、私の胸をわし掴みにした。
「また、そういうこと言って。」
だけどここは、私が萌え倒している場合じゃない。ここは会社の食堂。部長にあまりのかっこよさを前にしても、ニヤついてしまったら敵を作るだけだ。
「事実なんだけどな。」
「……。」
畜生。頬杖をついて私を見つめてくる部長はどうやら、私を破滅させたいらしい。かっこいいんですけど。背景が親子丼でもかっこいいんですけど。
「冷めますよ。」
「……ああ。」
ここは、そう言って催促するのが精いっぱい。やっと相棒の存在を思い出した部長が親子丼を見たことで、やっと視線が外れてホッとしている私。
ああ、親子丼を前にしてもかっこいい。あ、唐辛子かけてる。かける派なのねー。
あ、付属のお味噌汁をすすって微妙に顔を顰めた。確かに今日、味噌が薄いんだよね。