拾い恋(もの)は、偶然か?
「い、いえ、別の話です。」
思わず呟いた言葉を嫌味に取られてしまったらしい。美人に至近距離で睨まれるのは結構怖い。
「私を馬鹿にしてるの?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか。」
いえ、むしろ褒めてるんです、なんて本当のことを言っても、更に皮肉を返されたと思われても仕方がない。美人の迫力で追い詰めてくる松崎さん。一向に来ないエレベーター。まさに、絶対絶命。
すると……
「音?」
廊下に響いたヒーローの声。心地よい低音はもれなく目の前の悪役を後退させてくれた。ホッと息を吐いたのも束の間、今の状況があまりよろしくないことに気付く。
元カレ・元カノ、今カレ・今カノ。まさに揃い踏み。しかも元カノはたっぷり未練がある上攻撃的。ここで部長まで参戦してしまったら、松崎さんが可愛いなんて言っている場合じゃなさそうだ。
「と、松崎。」
「翔吾。」
立ち止まった部長の元へ、松崎さんが駆け寄る。さりげなく腕の服を掴んで私にニヤリと笑いかけた。
だけどなぜだろう。私には今、嫌悪感とか苛立ちとか、不安はない。
「音、待っててくれたのか。」
「そんなわけありません。」
この2人がつい最近まで付き合っていたとしても、この2人の間に流れる空気のようなものから、自分が不安になるような感じが一切伝わってこないからだった。