拾い恋（もの）は、偶然か？

それがなぜなのかは分からない。だけど、なんとなく……


「ねぇ翔吾、私……」

「ああ松崎さん、急ぎの仕事でなければ明日でいいかな？」

「え。」



不可侵の笑顔で松崎さんにそう言った部長は、私の手に指を絡めて繋いだ手を上げる。


「これからデートなんだ。」

「っっ、」


さりげない権勢。そしてなぜか部長の笑顔は、それ以上踏み込むなと語っているかのように怖い。


その上最高のタイミングで、さっきまでは一向に来なかったエレベーターが到着する。さすが。ハイスペックな方は運も味方するらしい。



「行こう、音。」

「……はい。」


部長に手を引かれて、エレベーターに乗り込むと、松崎さんの顔が、苦しそうに歪んだ。


心が痛むのは、私が馬鹿だからなんだと思う。恋愛なんて弱肉強食。別に対決したわけじゃないけど、部長が今付き合っているのは私なんだから、堂々としていればいい。


それなのに私は結局、彼女から目を逸らすことしかできない。きっと松崎さんがもっと狡猾な人なら、私はこういう所に付け込まれてしまうんだと思う。


エレベーターが閉まっていく。不意に視線を上げてしまった私は、悔しそうにこちらを睨みつける松崎さんと目が合ってしまった。