拾い恋(もの)は、偶然か?



ーーー、


司馬部長を見上げては、口をつぐんで、見上げては、言葉を飲み込んだ。


さっきエレベーターで、部長は怯える松崎さんを残してなにも言わずに閉まるボタンを押した。


エレベーターのドアが閉まる瞬間見えた松崎さんの表情は今でも忘れられない。


悔しそうな、寂しそうな表情。


それは明らかに、部長に未練があることは明白だった。


私は、どうすればいいんだろう。


何度見上げても部長は素敵で、かっこよくて。平凡な私がこんな凄い人の隣を歩いていていいのか、なんて疑問が常々つきまとう。


松崎さんは女子社員の花形部署秘書課の人で、仕事もできて完璧だと評判の人。

こんなにも残念な私が、本気になった彼女の相手にすらならないだろう。


「音。」

「……はい。」


いつか傷つく前に、さっさと諦めてしまえばいいのに。私はなんで、この人を見るとドキドキしてしまうんだろう。

「ごめんな。」

「え。」


いつか、こうして謝られた時、私たちの関係が終わるのならと考えたら、心の準備はしておかなければいけないのに。


「松崎さんとは、きちんと別れているから。」

「……。」


こうして元カノの存在をこの人が認めるだけで、こんなにも心乱されて、すがってしまう。

自分のこの人への、恋心に。



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