拾い恋(もの)は、偶然か?
目を見開いた部長は、次の瞬間、ニヤリと口角を上げた。
「やっぱり良いな、音は。」
ニヤニヤしながら私の肩を引き寄せて、甘える子猫のように頬ずりをしてくる。
「……部長。ドМなんですか?」
「恐らく違うと思うが。」
殺すと言われてニヤつくなんて、ドМか変な人かのどちらかだと思うけど。キョトン顔であっさり否定されてしまえば、冗談も通じるわけもなく。結局言った私がなぜか恥ずかしくなる始末。
「とにかく、それくらい怒るということです。」
だからさっき、松崎さんと部長が部長室でなにをしただろうが、結果的にそれが浮気なら私は部長をきっと許すことはないだろう。
浮気なんて、クズのすること。相手を思いやれば例えそれが本能だろうと我慢できるはずなのだから。
「ああ、浮気したら殺す。だろ?了解。」
「……。」
それならいいんです、で済むのに、なぜかしっくりこない。部長のリアクションが妙に軽いせいだろうか。
「ほんとうに分かってます?」
「ああ。」
至近距離で見つめ合うこと、数秒。唇に感じた温もりに、口が尖る。
キスで誤魔化された気がして。