拾い恋(もの)は、偶然か?
まるで何もなかったかのよう。私だけが変な妄想に囚われて意識しているみたいで気持ち悪い。
『絶対、落とすから。』
「っっ、」
耳元で聞こえたそれは、幻聴なんかじゃない。確かに昨日、薄暗い資料室で。
評判のキスなんかじゃなく、子供がするような、啄むようなキスをして、至近距離で部長は笑った。
体が震える。あの男は本気なんて出していないのに、私はもうノックアウト寸前なのだ。悔しい。圧倒的な経験値の差。そして、あの男の自信に溢れた表情を、いつまでも見ていたいと思う大バカ者の自分がいる。
落とすもなにも、もう落ちてますとは言えず、私はただ、震える声で落ちたりしません、と言うしかなかった。
「……古蝶?」
「すみません。」
鳴海先輩の呆れ声に謝るしかない。きっと先輩は、私がのんきにまた部長を眺めていると思っているんだろう。
不意に、部長の視線が動く。
ギクリとして、慌てて目を伏せた。
「っっ、」
耳元で響き続ける部長の甘い声。あんな声、当たり前だけど聞いたことがない。
部長は彼女には、あんな声で愛を囁くのだろうか。あの人ならきっと、凄くかっこよく、恥ずかしいセリフもサラリと言えてしまうんだろう。