拾い恋(もの)は、偶然か?



「あれ?てことは……。」

「あ、うん。今の彼氏は翔吾の弟。」

「はぁ?」



おっと。鳴海先輩の表情が険しい。軽蔑していますと顔に書いてあるかのようだ。


それにしても、部長に弟さんがいたとは。会社の噂からもサーチできていなかった。


「翔吾と付き合ってる時に偶然会ってさ。アプローチされて、こっちの方がいっかなって。」

「はぁ。」


もはやツッコむのも面倒になるほど、松崎さんの倫理が壊れている。でもどちらにせよ、今この人は部長の弟さんと付き合っている、と。でもやっぱり、部長のことが好きだったんだろうな。それだけは間違いないと思った。


だって、あの寂しそうな表情は、本当に人を想っていないとできないもの。この人が何でもないように装って今新しい恋に走っているのも、きっと逃げに違いないと思う。


「で、翔吾も私も、別にお互い恋してたわけじゃないし。別れようってことになって。私が振ったんだからね。」


苦しそうにそう言っても、同情する気にはなれなかった。だってこの人は、部長への想いを捨てようとしている。そんな人にもう、部長を想う資格はないと思うから。



「もうなんでもいいです。」

「マジでなんなの。」


もはや呆れるしかない私と鳴海先輩に、松崎さんがムッと口を尖らせる。



< 69 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop