拾い恋(もの)は、偶然か?
そして。
「鳴海。」
「仕事しますー。」
遂にげんこつをされても、頭の中でフラッシュバックし続ける。
いつもへたくそな笑顔のあの人が、昨日はとても優しく笑った。
あんな笑顔をできるのならきっと、今の3倍はモテるだろうに。なんて、そんなどうでもいい事で考えないようにして見ても、あの笑顔を思い出すだけで身体が熱くなった。
突然現れたその恋は、手が届きそうで届かない。
いや、ほんとは。
私にそんな勇気がないだけなのかもしれない。
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「古蝶。コイバナしよ。」
定時。訳の分からない誘い方をする鳴海先輩の手は、クイとビールグラスを傾けている。
どうやって断ろう。私は嘘をつくことがあまり得意じゃない。性格も不器用なもんだから、あの夢かも現実かも分からない出来事をこの人に隠せる自信がなかった。
「えー、習い事があるので。」
「あからさまっ。」
何がツボなのか、私の失礼な断りにも笑顔な先輩。同期を担当してる先輩だったら今頃イジメ倒されているに違いない。
「だって先輩。コイバナなんて私にはありません。」
「まぁ、それもそうだね。」
ウンウン頷いている先輩にムッとした。そりゃ私はどうせただの片思いなわけで。彼氏がいるわけじゃないから結婚間近の彼氏がいる先輩には敵わない。