拾い恋(もの)は、偶然か?
「だって新しい彼は私を大切にしてくれるもの!いいじゃないそっちにしたって!」
振り絞るように溢れ出た言葉はきっと、松崎さんの心の奥底にあった言葉。寂しい思いをしていたんだろう。悲しい恋をしていたんだろう。だからきっと、今度の彼は違う。彼女はそう思いたいんだ。
恋は、お互いに想い合わなければ恋とはいえないのに、自分が答えることのできない想いに彼女は縋ろうとしている。
それはとても卑怯で、相手を傷つける行為だ。
そう思うのに私は、何も言わなかった。松崎さんを偉そうに諭して、もし部長にまたこの人の気持ちが向いたとしたら、と考えたら。
汚い考え。自分でも最低だと思う。だけど私は自分に自信がないから。この人と比べられたらと思ってしまうから。だから私は、何も言わない。
「でも、意外と幸せ。」
それに、松崎さんが必死に彼を忘れようとしていることは分かるから。今の彼を想って、こんな表情をするから。だから結局、言わない。
「だから、ごめんなさい。意地悪をして。」
頬杖をついてるけど、食堂だけど。なんとなくこの人は、真剣に謝っていると分かるから。
「別にいいです。私も今幸せなんで。」
「あんた、ほんとに性格悪いわね。」
「松崎さんに言われたくないです。」
結局お互いに、何事もなかったことにしてしまう。ぶつかり合うほど相手を思いやることもできない私たちは、意外と似ているのかもしれない。だって同じ人を想っていたのだから。