拾い恋(もの)は、偶然か?



「なにあれ。」



松崎さんの質問に、首をかしげた。

「すみません、部長。」

「うん。これからは気をつけて。」

「はい!ありがとうございます!」


広い総務課の中心で、部長の氷の笑みになぜかお礼を言っているのは七瀬美代(ななせみよ)さん。確か私の5つ年上の、結構なベテランな社員。


「あの、お詫びと言ってはなんですが、今夜食事でも……。」

「そういうのはきちんと仕事をしてからにしてください。」

「ではきちんと仕事をしたら、誘ってもいいですか?」

「……。」


部長の冷たい笑みをものともせず、職務中に堂々と口説けるほどには、とてもとても肝が座っている人らしい。


「ほんと、なにあれ。」

「……山崎さんはどうしてここに?」


私の質問に、山崎さんが心外だとばかりに眉根を寄せる。


「聞いたのよ。最近あの女が翔吾のこと狙ってるって。」

「……秘書課って、暇なんですか?」

「そんなわけないじゃない。忙しいわよ。」

「……。」


七瀬さんと山崎さん、凄く似てると思う。少なくともこの場のみんなを黙らせるほどのインパクトはすごい。


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