拾い恋(もの)は、偶然か?
山崎さんが私の耳元で囁いた。甘い香りに低い声。まるで……。
「山崎さん、悪魔みたいですね。」
「真顔で言わないで。」
ちょっと気にしてるのよと口を尖らせた山崎さんは、突然かかってきた電話に慌てて出て部署を出ていく。
「なにしに来たの、あれ。」
「さぁ。秘書課が暇なんじゃないですか?」
彼女の背中を見送って、思わず笑みが漏れた。山崎さんのアクティブさは私にはないものだ。好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。それを表す方法が姑息だけど、決して悪人じゃない。
「あんた、山崎の扱い酷いわよね。」
「まぁ、山崎さんなので。」
呆れたようにため息を吐いている部長に視線を移した。そばでは七瀬さんが笑っている。
ちょっと、いやかなり気分が悪い。だけど仕事のことなら、上司がフォローするのが当たり前。だけど彼女がわざとなのか違うのか以前に、それによって迷惑を被る部長が心配だった。
ただでさえ部長職という立場は責任も仕事も多く、そのせいで会えることも少なくて、デートの回数は数えるほど。
それもなかなか、プラトニックなもので、したとしてもキスくらい。正直、七瀬さんどころじゃないのが現状なんです。