拾い恋(もの)は、偶然か?
なんで?私が睨まれなくちゃいけないの?助手席に乗りながらも、納得がいかない。
何かを聞こうにも、「高級車ですね!」とか、「いい匂い!」とか、ひたすら喋りまくる後ろの人がうるさくて話すどころじゃなく。車が会社に着くまで、七瀬さんの声をBGMに私からは何も話すことはなかった。
見慣れたビル街に入り、もうすぐ会社という所。結局仕事のミスの件はどうした?とばかりに部長に質問攻めだった七瀬さんがまだまだ話しかけている中、歩道近くに車が停車した。
「司馬さん、どうしました?」
質問したのは七瀬さん。もはやどちらが彼女なんだか。さっきから部長も彼女の話ににこやかに応対してるし、私の存在はどこへやらだ。
知らなかったなー。部長がテニス好きって。知らなかったー。
「もういいだろう。ここで降りてくれる?」
そう言われて私は、やっと解放される、そう思った。部長の方を見ることもなく、車から降りようと体に力を入れる。
だけど次の瞬間、強い力で腕が掴まれてしまう。思わず視線をやれば、まだ不機嫌な様子の部長が私をまっすぐに見つめていて、思わず嫌に心臓が跳ねた。
「音じゃなくて、七瀬さん。」
「え!」
めちゃくちゃびっくりしている七瀬さんは、一瞬黙ったけど、目を泳がせて、気まずそうに笑った。