拾い恋(もの)は、偶然か?
「そ、そうですよね、噂になると大変だし。」
「「……。」」
私も同乗してるのになぜか照れ笑いしている七瀬さんの考えてることが全く分からないけど、とにかく降りてくれそうな雰囲気だ。
「古蝶さん、早く!」
私を催促する七瀬さんは、手招きをしながら半分足が車から降りている。
「降りないよ。」
「え?」
少し、怒ったような声。戸惑う七瀬さんに部長は、いつもの営業スマイルを向けた。
「音は、降りない。」
「っっ、」
車の外で立ちすくむ七瀬さんは、ハッと我に返ると悔しそうに顔を歪めた。
「ありがとうございました。じゃあまたね、古蝶さん!」
「はぁ。」
物凄い勢いで車のドアを閉めた七瀬さん。この人の怒りポイントがよく分からない。ここで怒るべきは私なのでは。
ドシドシという効果音が見えるような歩き方で遠ざかっていく七瀬さんの背中を見つめていると、腕に痛みが走った。
「いたっ、」
「……悪い。」
少しだけだったんだけど、大げさに声を出したせいか、部長が咄嗟に手を離した。腕を見ると、ほんの少しだけ赤くなっている程度。