拾い恋(もの)は、偶然か?

肉食




黙り込んだ部長は、どこか一点を見つめている。車内に広がる沈黙が痛い。部長の表情はやっぱりどこか不機嫌そうで、目の前にいる嫌な何かを睨みつけているようにも見えた。



「音は……。」


言いかけて、口を噤んでしまった部長。苦悶の表情は言いかけていることが部長にとってとても言いにくいことであることを物語っていた。


「私が、なんですか?」



少し語気が強くなる。先ほどまでいた嵐のような彼女の余韻がまだ冷めていないのだろう。


チラリと私を見た部長は、一度下を向いて、決心したように真剣な表情を上げた。


「音は、嫉妬とか、しないのか?」

「……へ?」


突然のことに固まってしまった私を、部長はほんのり顔を赤くして困ったように見つめている。


嫉妬、しっと、̪シット?しないのか?と質問したということは、してほしい、という意味と取っていいのだろうか。部長が私に嫉妬して欲しい……。



例えば松崎さんたち元カノとか、突き詰めて言えばさっきの七瀬さんとか?焼きもちを妬く私を、見たい、と。



「部長は私に嫉妬して欲しいんですか?」

「っっ、それは、ストレートな、質問だな。」

「……。」

動揺全開でそう言った部長は、困ったようにうなだれている。


……なんだ、この可愛い生き物は?



仕事もできてお金持ちで、紳士で優しくて、運動は見た事ないけどきっとできるだろう。何もかもが完璧な王子様は、交際相手にもジェントルマンで控えめだ。


そしてこの可愛さ。それもプラスされれば、もはや最強なんではないだろうか?



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