拾い恋(もの)は、偶然か?




「あんた何様?」

「何様といいますと?」

「仕事のミスで上司を引き留めるなんて、随分馬鹿っぽい手を使うのね?」

「すみません、私、ドジなもので。松崎さんみたいな優秀な方が羨ましいです。申し訳ないとは思ってるんですけど、部長たちに助けてもらわないとなにもできなくて。」


感情的な松崎さんと比べ、七瀬さんは飄々と話している感じだ。この松崎さんの迫力にここまで徹底して冷静を保てるというのは、とてもすごいことだと思うけれど……。


だからこそ、部長まで動かすほどのミスをするような人間には到底思えなくて、本当に解せない。



「あの、七瀬さん。」

「なに?」



七瀬さんは笑顔だけど、なんとなく目が笑っていない。敵対的に見られているのはきっと気のせいじゃないはず。だけど、やっぱり、やっぱり、どうしても気になってしまうから。


「部長まで動かすほどのことをしてるんです。申し訳ないと思っているとはおっしゃってますけど、ドジで片づけられる事態じゃなくないですか?」


連日の部長を見つめているから分かる。嫌な顔一つしないで部下のミスをカバーするため、わざわざ部長自ら取引先に謝りに行っているのも分かってる。話を持って来た営業部の人たちに率先して頭を下げたりしているのも。


だからこそ、軽い感じで自分のミスのことを言っている七瀬さんにムッとした。



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