拾い恋(もの)は、偶然か?
ハッと気が付いた時には、もう後の祭り。静まり返った食堂中の人間が、私を見つめて固まっていた。
「……うっ、」
「へ。」
そして、絶妙なタイミングで聞こえた嗚咽。口元を抑え、慌てて目にハンカチを当てる七瀬さんを見た瞬間、しまったと思った。
「なにか用かしら?」
そこで間髪入れずに、松崎さんが周辺の人たちに威圧の笑顔を振りまくけれど、もう後の祭り。
「はぁ、とりあえず場所を移そう。」
もはや取り返しのつかないこの状況に、鳴海先輩の提案に真っ先に返事をした。
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うちの会社には、来客者を応対するラウンジがある。お昼時だからか誰もいないみたいだったから、一時的にそこへ移った。
「はぁ、どうしてこんなことを?」
腰に手を当て、目をハンカチで覆っている七瀬さんを見下ろす松崎さんの言葉に、彼女の肩がピクリと反応を見せた。上げられた視線は到底泣いていたとは思えず、思わず顔を顰めた。
「どうして?そんなの決まってるわ。」
「部長ですか。」
私がそう言うと、七瀬さんが深く頷く。その表情は勝ち誇ったようなそれで、彼女の理解できない感情に憤りが増した。