拾い恋(もの)は、偶然か?




「仕事でわざとミスをしてまで、周りに迷惑をかけてまで、部長を手に入れたいんですか?」


「……古蝶?」



ああもう、どうしよう。この人ブッ叩きたい。一歩前に出れば、松崎さんが道を塞ぐ。それを押しのけて七瀬さんを見下ろせば、受けて立つとばかりに七瀬さんは挑発的に笑った。



「申し訳ないんですけど、部長は渡せません。」

「ふふ、それは分からないじゃない。部下のミスを放っておけないのは、部長が良い上司であることは間違いないでしょう?それがいずれ女としての私を見てくれることを望むことの、どこが悪いのかしら。」



わざとミスをして、部長と一緒にいる時間を増やす。そこで部長が自分を好きになれば、私から彼が奪える。きっと七瀬さんはそう言いたいんだろう。


だけどそれは、社会人として、人としてしちゃいけないこと。そしてそんな手を使う人に、あの人は間違っても騙される人じゃない。そう思う。



「うん、やってみれば?」

「え?」



考えてみれば、そうだ。そんな人に騙される人じゃない。あの人は完璧な人で、王子様で。


今は私の、恋人だから。



「誘惑、すればいいじゃないですか?仕事も碌にできないような人に、部長が惹かれるわけないですけど。」

「っっ、」


私だって仕事ができない。だけどちゃんと、仕事に信念を持ってるから。こんな残念な人には、負ける気がしない。




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