君と、世界が変わる瞬間に。
ードンッー
「わ、すんませんっ」
「いえ!」
うわぁ。なんか人、さっきより多いかも…これじゃあはぐれちゃいそう。
「きをつけなきゃね、夕凪君」
…って、あれ?…うそ、まさか。はぐれた?そ、そうだっ携帯!!……え?…巾着袋に…携帯入ってない…
「ゆ、夕凪君!」
こんなたくさん人いたら、きっと大声で呼んでも聞こえない。…私はとりあえず1周してみることにした。
…歩くたび、周りの人の幸せそうな顔で悲しくなる。私がもっときをつけていれば。
「キャっ…」
ードサッー
下駄の尾が切れたんだ…っ。…足から血もでてる…。…もぉ、最悪…っ。
「あっれ~彼女ひとり?…泣いてる?」
「おっ、思ったより可愛い~」
夕凪君と言ってくれた言葉は同じなのに、ゾワッとした。
「ねーねー、俺らと遊ぼ」
腕を掴まれた。振りほどこうにも力が強くてどうしようもできない。…また、あの時と同じだ。…小学生ころの私と加藤諒太。バイトの時のそして私と店長。…なんでいつも私ばかり…。
もう…どうでも…いいや……。
「お、諦めて俺らと遊ぶ気になった?!」
『助けが必要なら助ける。だから呼ぶんや!』
「…なぎ……く…」
「え?」
「夕凪君!!!」
ーバサッー
「…悪いんですけど、この子。俺の連れなんで、他あたってください」
「ッチ、男連れかよ」
来てくれた。…また。……彼はほんと、ヒーローみたい。
「…へ?!泣いとる?!まさかあいつらになんかされたんか?!」
「え?…あ、ううん。これは…」
なんだか安心して…。そう言おうと思ったのに、口からは出なかった。…私の体を彼が抱きしめていたからだ。
「ごめん。ひとりにして。あいつらに触れさせて。ごめん…」
「夕…な、ぎ…君…?」
「…無事でよかった」
そう言って微笑んだ彼を見て、私は気づいてしまった。…ドキンドキンとなるこの胸の音の意味を。
好きなんだ。…夕凪君のことが。
可愛いと言われて嬉しいのは好きだから。遊びに誘ってくれて嬉しかったは好きだから。彼が笑顔になるとこっちまで笑顔になってしまうのは好きだから。
……きっと、私は辛い目にあった時に、彼の名前を呼ぶのは、彼なら来てくれるって信じていたから。
こんなにもたくさんヒントが出ていたのに…どうして気がつかなかったんだろう。