君と、世界が変わる瞬間に。
やっとの思いでこの時から逃れても、私の心はどんよりとした気持ちのままだった。
「ただいま」
家に帰って空気と化した言葉を、いつもいつも口にしては唇をかんだ。
「あ…お母さん、帰ってたんだ」
スーツ姿のまま頭をぐったりさせ、テーブルに座る母にそう声をかけた。
「ええ」
お母さんはいつも帰りが遅い。お母さんだけじゃない。お父さんもだ。だからいつも私はこの時間、家に帰ると誰もいない。
…居たなら「おかえり」っていってほしい。
そんなことは決して言えるわけがなかった。
「ごめんね、なにか作るね!」
「いいわ。…弁当買って食べたから。そこにあるのあんたのだから食べなさい」
「うん…」
お母さんはそれだけいって寝室に入っていった。
温めたはずのお弁当がなんだか冷たい。…冷たくてまずいのに、口に詰め込んだ。…そうでもしないと涙が零れそうだったから。
「まずいなぁ」
はははっと笑って、カラになった弁当をゴミ箱へ落とした。