君と、世界が変わる瞬間に。
【翌日】
「今日は転校生を紹介するぞー」
先生のその一言で静かだった教室がざわめき始めた。「入れ」と、先生が呼び、みんなの視線がドアに釘付けとなる。
ーガラガラー
わ…。…目を引くような、惹かれるような、奪われるような。…そんな人……。
「自己紹介」
「えーっ…俺は大阪から来た夕凪健人って言うねん!!…好きな食べ物はカレー、嫌いな食べ物はブロッコリー。特技は運動で、苦手なんのは勉強…。…身長は169cmで体重は…」
ジェスチャー付の自己紹介を延々としてそうな雰囲気をかもしだしていた彼に、先生は「もういい」と呆れた様子で言い、席の場所を説明するしてる。
「かっこよくない?」
「だよね!」
こそこそと聞こえる女子の声。言われてみれば、確かに整った顔だ。だけど……どうしてかわかんないけど……彼を見て違和感が生じた。
「ねぇねぇ夕凪君、大阪ってどんなところー?」
「なんで転校してきたの?」
「関西弁ってかっこいいよね!」
ホームルームが終わってそうそうに彼の周りには人だかりが出来ていた。それは女子だけじゃなくて、男子も同じみたいで…
「部活とかやってたか?」
「大阪のたこ焼きってこっちと違うのか?」
「大阪の人ってみんな優しいって聞くけど本当なのか?」
すごいたくさん質問されてる〜。…まぁ転校生ってやっぱり珍しいからなぁ。…それに、自己紹介でみんな、彼に対して陽気な感じを見て話しかけやすかったのもあるんだろうけど。
…それからも軽く質問攻めで「もっと落ち着きなよ」と心では思っていたが、彼はひとりひとりにきちんと答えててみんな好印象をもったようだ。
「みんなちょっとごめん〜」
「なんだぁ?空も夕凪に質問かぁ?」
茶化すクラスメイトに、私は「違うよ」と笑っていって彼に向き直す。
「先生に学校のことを教えてやれって言われてるし、学校案内でもしようか」
「おお!さすが学級委員長!!」
「ええんか?」
「いいよ」
輪の中心に居た彼を、急に入ってきた私が連れて行っても誰も文句を言わないのは、今までの私の行いのおかげだろう。
「ありがとな!…ええっと…」
「雨野空。よろしくね」
「え…っ?」
名前を言った途端、彼の反応が明らかに変わった。
「な、なにかな?」
「…あ、いや…。なんでもあらへん!さっ行こか〜」
よくわからないけど、元に戻ったようなので私も先を歩く彼に、急ぎ足で追いついた。
「……で、ここが屋上ね」
これでひと通りまわったかな?
「…屋上って開くんか?」
「え、ううん。立ち入り禁止だよ。でも、場所を覚えておいて損はないと思う」
私がそういうと、彼はガチャガチャと屋上のドアを回し始めた。「何してるの?」と聞いたのと同時に微かに光がさしこんだ。
「え?!」
「開いたで!!」
生徒がどんなに頑張っても開くことのなかった屋上の扉。それが開いた。
「えっ、どうやったの?!」
「ん?少し上に持ち上げて…こう!」
なるほど…。ここの扉は鍵がかかってたんじゃなく、錆び付いていただけなんだぁ。
「ほら、入り〜」
「でも立ち入り禁止だから入るのは…」
「ダメ」と言いたかったのに、彼はもう聞いていなかった。それどころか、寝っ転がっている。
「ほら、こっち来て景色みてみ」
ダメだと分かっているのに足を踏み出したのは、彼があまりにも楽しそうにするから。