君と、世界が変わる瞬間に。
「こっちこっち!」
「……すごい…」
街が見渡せる。人が見える。空が見える。 遠く遠く、遥か彼方まで。
「すごいやろ?」
今日初めて見たはずなのに、彼はずっと知っていたかのように笑った。
「寝っ転がって見てみ」
私は彼の言う通りに寝っ転が妻。すると、目の前に空が広がる。手を伸ばせば届きそうなくらいの近さ。
ーカシャー
「カメラ?」
「そや」
彼はデジカメで空の写真を撮っている。1枚、2枚ではなく、たくさん撮っていて「撮りすぎじゃない?」って聞くと彼は笑った。
「…カメラ、好きなの?」
「ああ。撮ってみる?」
「え、いやいいよっ」
そう言うと彼は「つまんないの」と言って、または写真を撮りだした。
「そんなに撮ってても、仕方なくない?」
猫かぶるのを忘れて思わず本音がポロッと口から出た。…「しまった」と思ったけど彼は気にしていなかった。
「世界は毎回違うんや」
「…え?」
「色、形、匂い…それらのどれかが変わるだけ世界も変わる」
色、形…匂い?……それがどう世界と関係するんだろう…?
「ほら、見てみ」
彼は真上をさした。…いや、きっと空を見ろ。ということなんだろう。…私は言われた通りに上をみる。
「さっきと違うやろ?」
「……わかんない」
そういうとまた彼は笑った。
「それはちゃんと視てないからや。ただ見るだけなら誰にだって出来る。例えば小さいころ、あの雲ドーナツみたいだって思ったことあるやろ?」
私はコクッと頷いた。
「今、そんなふうに思うこと…あるか?」
そう言われてみれば、ないかもしれない。…空を見ても何とも思わないと思う。
私は首を横に振った。
「いつだって世界は変わってる。その時は一瞬しかないんや。だから見逃しとうない。」
そう言って、またカメラをのぞき込む彼を見て私は思う。
きっと、彼は辛い思いとかしたことないんだろう。毎日楽しくて、世界がきらめていて見えるんだろう。だからきっと、私の気持ちはわからない。
…と。
「そろそろ行かないと。授業遅れちゃう」
私はにっこり笑ってそうつけだ。けれど彼は「サボる」と言った。…どうしようか迷ったけど、結局置いていくことに決めた。