君と、世界が変わる瞬間に。
そして、そんな不安を抱えたまま球技大会の種目決めの日となっていた。
けれど、夕凪君はちゃんと教室にいた。…いや、居させた。私が絶対に種目決めに出るように言ったら、あっさり頷いた。
「はーい、みんな聞いて」
私が教卓のところに立ち声をかけるとみんなは私の方を向いてくれる。
「球技大会の種目決めしたいと思うの。種目は黒板に書いたとおり、サッカー、野球、バレー、バスケの4種類。被ったらじゃんけんね」
それだけ言うとまた教室が騒がしくなる。
「ねぇ、空は何するのー?」
「あ、それ思ったー!」
「雨野俺と一緒にバスケしよーぜー!」
話の話題が私になって、一瞬戸惑ったが、なんでもないように笑って「んー何にしようかなぁ」と答えた。
「空、空っ!…同じのなろ!」
教卓の前まで来て笑顔で言ったこの子は、1番仲のいい"榎本瑠璃"だ。ゆるふわの二つ結びが印象的な子で、とてもいい子。
「うんっ」
そして、私と瑠璃はバレーに出ることとなった。すぐに決まったので、みんなもすぐに決まると思っていたけれど、男子が揉めあいになっていて驚いた。
「えっと、何があったの?」
「バスケが多くてよ。誰が抜けるか話し合ってるらしい」
いや、どう見ても話し合いじゃないじゃん。
そう思ったのは私だけじゃないだろう。
「もっと、落ち着こう。ね」
「あ?うるっせぇよ!仕切んな!!黙ってろ!」
ービクッー
体が強ばったのがわかった。…きっと、何気なく言った言葉だったんだろう。…だけど私には簡単な言葉じゃなかった。
ここで否定されたら…私…いる意味…ない。……いらない…って言われたら…
ーダンっ!ー
あまりに急な音だったのでみんなびっくりして、教室は静まり返った。
「な、なんだよ夕凪」
その音を出したのは夕凪健人。もめていた男子の目は明らかに彼に敵意を向けている。
「……あかん。」
「あ?」
「寝ぼけとったわ…」
彼の言葉で数秒みんなの動きが止まり、明らかに変な空気が流れた。…そしてそれは次第になくなり、今度は誰かが吹き出した。
「あははは!!…お前最高!!」
「ふっ…ふははっ!!なんだよ寝ぼけてたって!!」
「まじうける!!座ったまま寝るなよ〜!!」
「ブロッコリーを無理やり食べさせられた夢見てな〜!」
それを聞いてまたみんな笑い始めた。…私も空気を読んで笑った。…けど、口元が引きつっていたのを、自分でも気づいていた。
だって、彼は寝ていなかった。音がする直前、彼は空を見上げていたから…。
「あれれ、バスケ決まってへんの?なら俺野球にしーよー!」
「夕凪野球にすんの?なら俺も!」
「じゃ、俺も〜!」
彼が野球になっただけで問題が解決してしまったようだ。…正直助かったけど、悔しかった。