君と、世界が変わる瞬間に。
結局、そのことが頭から離れず授業も集中できなかった。そして6時間目の移動教室になったとき…
「なぁ」
カバンを持った夕凪君が私達に話しかけてきた。いや、正確には私に話しかけたらしいのだが、その一言からはわからなかった。
「来て欲しいんやけど」
「え?!」
手首をギュッと掴まれ、腕の中から教科書らがバサバサっと落ちる。
「ごめんけど、この子借りるな!」
…え?!
「…あ、うん!!…空は体調不良で休んでるって伝えるね!!!!」
「おおきに!」
「え、ちょ、まっ…。…何?!!」
手首を掴まれそのまま引っ張られるこの状況を理解出来ない私は、足がもつれながらもされるがままとなっていた。
ーガチャー
「…夕凪君…私、授業行かないとっ…」
屋上に入ってから離された左手を、右手で抑えながらそう言った。
「みてみ!」
けれど、彼には届かなかったみたいだ。
「ほらほら〜!…見てや!…」
夕凪君が私の背後に回り込み、グイグイと押した。私は、力強い彼に抵抗できず、結局屋上の真ん中に来てしまった。
「…っ…」
けれど私は抵抗どころか、声を出すのも躊躇った。
「な、綺麗やろ?」
目の前に広がるのは、澄んだ空だ。雲かなくて、広くて、透き通るような清い空。…
「澄清っていうんや」
「ちょう…せい?…」
「そ。澄んでて清い…濁りのない空のことや」
きれい…。……濁りのない…その通りかも。
その空は、悩みとかなにもかもどうでも良くなってしまいそうな程に、私の心に強く印象づけた。
「…どーや?元気でたか?」
夕凪君は空見ながら私に言った。
「……元気だったよ」
「そうか。なら、お節介やったな〜」
彼は気づいていた。だから連れてきてくれた。…なのに、気づかないふりをした。お節介なことをした、なんておもってないくせに……。けど、そんな彼のちょっとした優しさが…今は心にしみた。