なないろ
美男美女のカップル、かぁ。

そりゃ、私だって恋愛をしたくないなんて思ってるわけじゃない。

こんな私を好きになってくれる人なんて、いるわけない。ただそれだけだ。

赤い絵の具を使って白いキャンバスに、小さなハートを描く。

いつの間にか、ラブの象徴みたいになっているハートだけど。本当は気持ちを表したものであって。

男女関係ない、人、の気持ち。

私の、気持ち。

小岳さんの、気持ち。

そりゃ、違って当たり前の事で。

それを全て理解することなんて到底無理で。

それでも、あの美貌はやっぱり羨ましい。イケメンの彼氏がいるのも羨ましい。リア充ってやつ?

そんな自分の黒い気持ちを隠すように、描いたばかりのハートを同じ赤い色で塗り潰す。

するとそこには真っ赤な丸い形が現れ、燃える太陽のように私を見つめる。

それはまるで赤い眼球のようにこちらを睨みつけ、私は怖くなり周りに花びらをいくつか描いて花模様にする。

ホッとして息を吐く。まるで、人の気持ちを表しているよう。

可愛らしさをまとう花の中には睨みつける眼差しがあり、その中に、本当の気持ちがある。

気持ちの、上書き。

みんなそんな風にして、生きてるんだ。


「虹は?だれか気になる人、できた?」

まだ恋バナは続いていたようで、同級生の女の子が目をキラキラさせて私を見る。

「いやあ、なかなかね。どっかにいい人いないかな」

こうやって気持ちに上書きをしていると、自分の本当の気持ちがわからなくなってしまう。
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