なないろ
家に帰り部屋に入るとすぐ、タブレットを取り出す。昨日何気なく押してしまったナナに対するイイねが、少し気になっていた。

見ると昨日投稿した呟きには反応はない。ナナの新しい投稿も見られなかった。

気にしすぎか……。たかがイイねを押したくらいで、すぐに相手から反応が返って来るとは限らない。

『こんなはずじゃなかった。アイツが、眩しく見える』

自分が打った文字を見てため息が出る。最近の呟きは吐き出すようなものばかりだ。

透と話せたことは少なからず上向きになったけれど、それでも正直言って野球部が羨ましかった。

「おまえは完ぺきすぎんだよ」

透が言っていた言葉が頭に残っている。

何が完ぺきだ?

自分の気持ちを押し殺してみんなに合わせてもがいてるだけの自分は、とても完ぺきとは思えない。

俺自身が、自分に自信が持てなければ意味なんてない。

「あー!もう!」

押し殺した熱い気持ちは行き場を失い、身体の中を彷徨う。

それを取り出して冷凍保存するすべなど知らない俺は、とりあえず気分を変えようと出されていた課題に手をつける。

比較的得意な数学はあっさりと終わらせることができたが、問題は英語だ。

長文を読み上げているのを自撮りして、それを送らなければならないのだ。

何度か練習をしたが、どうしても途中で引っかかってしまう。だから英語は苦手なんだ。

何度練習してもきっと同じ。きちんと暗記できていない証拠だけど、今は集中して練習する気持ちにすらなれない。半分諦めた気持ちでダメ元で自撮りするためにタブレットを開く。
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