私の本音は、あなたの為に。
(此処に居ちゃ、駄目だ)


今、此処に居てはいけない。


私の本能がそう告げていた。


五十嵐が、この部屋でテスト中だからということもあるけれど。


けれどそれ以前に、五十嵐がこの部屋でどうやってテストを受けているか、知らない方がいいと思った。




そうして、全てのテストが返された1週間後の水曜日。


皆の興奮も、治まってきた頃。


今日も図書室係の私は、五十嵐と一緒にテーブルに座って本を読んでいた。


放課後はほとんどの生徒が図書室に来ないと分かった今となっては、此処は私達の為にある世界の様なもの。


だから、いちいちカウンターに座って生徒が来るのを待たなくても良くなったのだ。


そんなこんなで向かい側の椅子に座った五十嵐は、これ見よがしにスマートフォンでゲームをしている。


それをたまに見ながら、私はサッカー関連では無い普通の小説を読んでいた。


家では例え死んでも読めない様な、淡い恋愛ものの小説。


ここなら、時間の許す限りどんなジャンルの本でも読んで良い。


それが、家では“男”に束縛されている私にとっては、本当に嬉しかった。



そうして私が本を読み始めて10数分後。


「うっわー、また間違えた…」


突然聞こえた、五十嵐の悔しそうな声。
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