私の本音は、あなたの為に。
リズムゲームをやっているのか、五十嵐が持つスマートフォンから聞こえてくる軽快なリズムの曲は、不協和音となって途切れた。


「最悪…また最初からだ」


大きくため息をついた彼は、深呼吸をしてからスマートフォンの画面を見詰める。


「ねえねえ」


そんな五十嵐に、私は話し掛けた。


「そんなに難しいの?私にもやらせて」


「えっ?…でも、これ本当に難しいよ」


私の提案に、五十嵐は目をむいた。


『俺が出来ないんだから、安藤に出来るはずがない』


疑わしそうなその目から、呆れた様な言葉が読み取れる。


「そんな事ない、私も出来るよ。五十嵐、ちょっと貸して」


私は五十嵐のスマートフォンに手を伸ばしたけれど、彼はすんでのところでスマートフォンを自分の胸に近付けた。


「本当に難しいって!俺がやるから、安藤は本でも読んでなよ」


「私、そういうゲームやった事がないの。1回だけでいいから、やらせて?」


粘る私と、拒む彼。


「えぇー…」


「…ほんの少しだけで、良いのに…」


明らかに嫌がる五十嵐を見て、私はとうとう頼み込む事を諦めた。



私がもう粘ってこないと分かった五十嵐は、安心した様に微笑んでまた画面を見詰めた。


そして、今日何度目かの軽快なリズムの曲が流れてくる。
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