私の本音は、あなたの為に。
自分でも驚く程の大きな声。


五十嵐はびくりと肩を揺らし、ゲームを一時中断した。


そこで、ようやく私の異変に気付いたようで。


「え?」


困惑した様な五十嵐の声も、もう遅くて。


絶望の感情が頭の中で渦巻く私には、もう何も考えられなかった。


「私は男じゃない!そんな事言わないで、もうやめて、聞きたくない!」


「っ…!?」


驚いた様に目を見開く五十嵐。


「五十嵐は、私の事を何も知らないのにっ…」


私は勢い良く立ち上がり、そのままの姿勢で座っている五十嵐を見詰めた。


きっと、私の目は濁っているだろう。


「私は女なの!…五十嵐まで、“私”を取らないで…!!」


唯一残った学校で、五十嵐が“私”を取ってしまったら。


“私”には、もう何も残らない。


残された道は、ただ1つ。


四六時中、兄になる事。


家の中でならまだ良い。


喜んで、兄になりきれる。


けれど、家の外での私はまだ“私”で居たくて。


偽の私は、本当の“私”ではない事を知っている。


「もう、嫌っ…!!」


私はおぼつかない足を動かし、一直線にドアへ向かった。


もう、一刻も早くこの場所から抜け出したかった。


早く逃げないと、私が壊れてしまう。


その思いが、私を動かしていた。
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