私の本音は、あなたの為に。
何故、俺は図書室に居るのだろう。


何故、俺は図書委員会に入ってしまったのだろう。


本、いや、文字を見る事すら嫌だったあの頃を思い出してしまう。


安藤が居たから、安藤と同じ委員会になれたから。


俺は、安心して図書室に居れたのに。


字を見るのが怖くても、それでも。


安藤が傍に居てくれたから、頑張れた。


安藤が読んでいた本を、読もうと思った。


自分から本を読むなんて、ほとんど無かった。


けれど、安藤のおかげで頑張って字と向き合えた。


それなのに。


「俺、酷い事しちゃった…」


今更襲い掛かる後悔と、字に対する猛烈な恐怖。


(安藤を追い掛けなきゃ)


その思いと、


(ここから逃げなきゃ)


正義感と、恐怖。


その思いが、交差する。



俺は、ぎゅっと目をつぶった。


不規則に動く蟻の行列の様な字を極力見ないようにしながら、そろそろとドアへ向かう。


ドアノブを掴んで一気に扉を開けた時、自分自身への解放感は計り知れなくて。


大量の字がうごめく世界から脱出した俺は、先程と同じ様に一気に扉を閉める。


目を開けてここが廊下だということを確かめた俺は、安堵しながら安藤を追い掛けた。
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