私の本音は、あなたの為に。
もちろん、私は振り向いていない。


何も知らない花恋だけが、五十嵐と話している。


「そこに居るのって、安藤?」


2言3言花恋と話した五十嵐が、声を張り上げて聞いてきた。


「あっ…」


花恋は言葉を濁し、私を見た。


その目は、


“何て言えばいいの?”


と言っている。


私の様子がおかしい事が分かっている花恋なりの、心遣い。


だから私も、


“今は五十嵐と居たくないの”


そう、目線だけで伝えた。


瞬時に私の言葉を読み取った花恋は、軽く頷いて五十嵐の方を見た。


五十嵐と私達の距離は離れているらしい。


五十嵐を見ている花恋は、口の端を上げていた。


「そうだよ、優希だよ」


花恋には何か策があるらしく、先程よりも笑みが大きくなってきていて。


「安藤?…安藤、さっきはごめんって!まだ今日の係終わってないから、一緒にやろう」


五十嵐の言葉に、ほんの少しだけ心が動かされるけれど。


(嫌だ…)


拒絶の気持ちの方が、明らかに強かった。



「えっ、何?優希、私のピアノの演奏聴きたいの?」


途端に、花恋が声を張り上げた。


「えっ…?」


私の口から、驚きの声が漏れる。


けれど、それも花恋の作戦の一部だとすぐに分かった。
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