私の本音は、あなたの為に。
「もう帰ろうと思ってたんだけど、優希の頼みなら仕方ないよねー」


花恋は五十嵐にも聞こえる様に話し続けながら、その合間に小声で私に話し掛ける。


「背筋伸ばして。泣いてるって知られたくないでしょ」


私は言われた通りに背筋を伸ばし、花恋の後を付いていく。


「何の曲がいい?」


花恋は、音楽室の扉に鍵を差し込みながら小声で言葉を続ける。


「優希、次に私が言ったら頷いて。…音楽室で話聞くから」


私は、大きく頷いた。


「私、今またノクターン練習してるから、聴きたい?前よりも上手になってるよ」


相変わらず、五十嵐にも聞こえる様にわざとらしく大きな声で話す花恋。


私は、花恋に言われた通りに頷く。


そして、鍵を開けてドアを開いた花恋は、後ろを振り返った。


「そういう事だから、怜音。ちょっとだけ優希借りるね!」


「えっ…いや、おいっ!」


五十嵐の走って来る音が聞こえる。


(あの音に飲み込まれたら、私は……)


また、あの言葉を言われるかもしれない。


その恐怖が、私をむしばむ。


前までは、五十嵐に対してこんな風に思わなかったのに。


またもや私の体が強ばった事に気付いた花恋は、私の背中を押して先に音楽室へ入れさせる。


「すぐ戻るから、怜音は図書室で待っててね」


花恋はすぐに振り返り、そう五十嵐に伝えた。
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