私の本音は、あなたの為に。
どうやら、電話が繋がったようだ。



「もしもし?…お父さん、うん、私。……」


電話に出たのは花恋の父親のようで。


「その事なんだけど…。うん、ピアノ。……今日、休ませてくれないかな?」



『何で?』


そう聞き返す、花恋の父親の声が聞こえる。


その声だけ聞こえたという事は、そこだけ大きな声で話したのだろう。


「…いや、ピアノの先生からの宿題終わってなくて……。え?…ほら、この前学校でピアノの本借りたじゃん…?」


上手い言い訳が思い付かないのか、花恋はしきりに目を泳がせている。


私は、先程と同じ場所-ドアの近く-でその話を聞いていた。


「そうそう!…私、その本の貸し借り沢山しちゃってるから……。うん、暗譜しようと思って……だって、図書委員にも迷惑がかかるでしょ?」


あと少しで父親を上手く丸め込めそうなのか、先程とは真逆の表情の花恋は、顔の緩みを抑え切れていない。


「うん、だから……。えっ?もちろん!…じゃあ、今日はいつもよりも長く学校に居るね。…うん、ありがとう。じゃあねー」


そして、花恋は電話を切った。


「どうだった…?」


私の心配そうな声色に気付いた花恋は、こちらを向いて親指を立てて見せた。


「もちろん、休ませてくれるって!…その代わり、今日はいつもより長く学校に居て、楽譜の暗譜をしておいてって言われたけど…」
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