私の本音は、あなたの為に。
「安藤は?」


五十嵐の小さな声が聞こえた。


「優希なら上だけど、何で?」


花恋は、至って普通に答えている。


「何で、此処に来ないの?」


少しの間が空き、五十嵐がゆっくりと尋ねる声がした。


「その事なんだけど…、優希ね、“男っぽい”って言われるのが嫌なんだ」


そっと、花恋が言葉を紡ぎ出す。


私と2人で交わした約束にはぎりぎり触れないようにしながら、彼女は慎重に言葉を選んで話していて。


「えっ?」


五十嵐の声が急に大きくなり、


「あっ、ごめん…続けて」


と、また声のボリュームを下げた。


「優希は、髪の毛が短くても性格が男っぽくても女子だから。…優希ね、それがコンプレックスなんだ」


花恋がその言葉を言い終わる前に、五十嵐の息を飲む音が聞こえた。


「えっ……」


「だから、言わないであげてね」


続いて、そうお願いする花恋の声も聞こえてきた。



本当は、あの台詞は私が言うべきなのに。


けれど、弱い私にはそれすらも言えない。


今も五十嵐の事を直視出来ないのに、五十嵐に向かって何か言う事なんて、私にはとってはもっての外。


「でも、俺が最初に“男っぽい”って言った時、安藤は何も言わなかったよ」
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