私の本音は、あなたの為に。
「…そんなの、どうだっていいだろ。安藤を待ってただけだから」


数秒間が空いてそう言い訳をする五十嵐の声は、心なしか震えていた。


「っ…、優希にあんなに酷い事を言っておいて、行動もせずにのうのうと此処で待つ気だったの!?」


花恋の声は、廊下中に反響する。


「そんなっ…。だって俺、安藤がどう思ってたかなんて分かんなかったし…」


先程までの威勢は何処へやら、五十嵐の声は弱々しくなってしまって。


(五十嵐…)


私は、壁につく手に力を込めた。


「優希のあの表情を見ても、分からなかったの!?…クラスメイトで、委員会も同じなんでしょう?」


花恋は、私を守る為に自らの優しい一面を投げ出してしまっている。


(ごめんね…)


私のせいだ。


「何で、気付かなかったの…?」


花恋のその声と同時に、私は物陰から飛び出していた。


何故か分からないけれど。


考えるよりも先に、体が動いていた。



私が廊下に出た事で明らかとなった、2人の姿。


図書室の目の前で2人はいがみ合っていた。


花恋は上半身だけこちらを向いていて、五十嵐はそんな彼女から少し距離を置いた斜め後ろで立っていた。


「あれっ、優希…?どうして、待っててって言ったのに…」


花恋が私の姿を見て、そう呟く。


そして、それに反応した五十嵐がこちらを振り向いた。
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