私の本音は、あなたの為に。
「…ここ、めっちゃ難しい……」


先程から耳にしている軽快なテンポに戻した後、花恋は悔しそうにそう呟いた。



「五十嵐、1時間1人で過ごすのが嫌なのかな?」


少しの間が空き、私は目を擦りながら独り言を言った。


「…でもさ、もう」


花恋が何かを言いかけた時、ピアノの不協和音が鳴り響いた。


「あーっ、弾けないいい!」


花恋は頭を抱え、その長い髪の毛をぶんぶんと揺らした後、


「でもさ、もう高校生だよ?優希が休み始めてから怜音も仕事休んでるっていうのは、さすがに、ねえ…」


と、言葉を濁した。


「何が、嫌なんだろ……」


私はそう言い、


「本当だよね。優希はれっきとした理由があるけど、怜音はただのサボりじゃん」


花恋は、語気を強めた。


私は、曖昧に笑って誤魔化す。


確かに、私にはれっきとした理由がある。


けれど、五十嵐もそれなりに理由があるのではないだろうか。


根拠も無いのにそんな風に思ってしまう、自分が居た。



その日の帰り道。


まだ練習を続けるという花恋を音楽室に残し、私は1人で校門を出ようとしていた。


校門の前でうろうろとしている男性の横をすり抜け、歩き出したその時。


「…あれっ、優希ちゃん?」


後ろから、誰かの声がした。
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