私の本音は、あなたの為に。
「…大ちゃん…?」


私の声を聞き、その男性は頷いた。


「ちよっと、まさか俺の事忘れてないよね?そんな事言わせないからね」


取ったサングラスをTシャツの胸元に掛けながら、彼-松本 遊大-は、冗談混じりの笑みを浮かべた。



松本 遊大は、私達兄妹と幼馴染み。

しかも、今は亡き兄と同年代で、同じサッカークラブに所属していた為、彼もサッカーが上手だった。

そんな彼に、私達は“大ちゃん”と呼んで懐いていた。

“遊ちゃん”と呼ぶと、私達兄妹の“勇也”と“優希”に似ていて、他の大人に間違われていたから。

今思えば、友達という枠を超えた家族の様な関係だった気もする。

けれど、私の兄が亡くなる数週間前。

彼は、サッカーの練習中に右半身に酷い怪我をし、入院せざるを得なくなった。

しかも、外国での手術が必要な程の大怪我で。

だから彼は、アメリカに渡米したはずだったのに。



「帰ってきたんだ…」


私の間抜けな声に、大ちゃんは声を上げて笑った。


「当たり前じゃん!一生あっちにいるわけないよ。きちんと手術もしたし、もう大丈夫」


「…なら、良かった」


数年ぶりの会話。


最初は怖い人かと思っていたけれど、その男性が大ちゃんだと知った私は、もう昔の私を取り戻しかけてきている。


フレンドリーで、今までとは違って悩みも無かったあの頃の私を。
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