私の本音は、あなたの為に。
「図書委員会?勇也、読書が好きだったものね。良かったじゃないの」


ママは、洗い物をしていた手を止めて微笑んできた。


「うん。それで俺、毎週月・水・金の放課後が図書室での係になったから」


(私が女子になれる時間を多くしても、良いよね…?)


私の願いは、ママに届いた様で。


「あら、そうなの?分かったわ、何時から何時までなの?」


「16:00~17:00だよ」


平然と答えながらも、私は今にも踊り出したい程嬉しくて。


ママに認められた。


女子になれる時間が、多くなった。


もちろんママは、自分がそんな風に許可をしたなんて夢にも思っていないはずだけれど。



「分かったわ。私は19:00位まで仕事が入る時もあるかもしれないから、覚えておいてね」


「うん!」


私はいそいそとママの横に並び、さり気なく洗い物を手伝う。


(ありがとう、ママ)


感謝の気持ちもあるけれど、それとは別の気持ちも渦巻く。


(もしもお兄ちゃんが生きていたら、私の事をどう思うのかな…)


嘘という名の鎖に縛られ、為す術もないまま自分を騙す日々。


これを兄が見たら、どう思うだろう。


「ごめんね、お兄ちゃん」


私はママに聞こえない様に小さく呟く。


私はもう、自分を騙さないと生きていけない。


希望がない私にとって、夢を持つなんて事は出来やしないのだから。
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