私の本音は、あなたの為に。
「うん。…大ちゃん、今日は本当にありがとう」


大ちゃんに久しぶりに会えて、私は素直に嬉しかった。


「いえいえ。急に学校に押し掛けちゃってごめんね」


大ちゃんは、恥ずかしそうに笑った。


「大ちゃん、また会えるよね?」


鍵を使って自動ドアを開けた私は、何の気なしにそう聞いた。


「えっ……」


その時。


大ちゃんの顔が、本当に曇った。


今までとは違って、目線まで下に下がってしまっている。


(えっ…?)


『大ちゃん?』


そう聞こうとした時、


「もちろん!優希ちゃん、また俺に会いたいの?優希ちゃんの為なら飛んで来てあげるよ」


大ちゃんは、冗談交じりの言葉を言いながら、にっこり笑って頷いた。


「うんっ」


私は笑いながら頷いた後、


「またね、大ちゃん」


と手を振った。


「うん、じゃあねー」


大ちゃんはいつの間にかサングラスを掛け、左手を上げて手を振ってくれていた。



エレベーターに乗り込んだ私は、鏡を見る。


その瞬間、自分の目付きが男の様に鋭くなった。


家にママが居る事は、先程の大ちゃんの台詞から確認済みだ。


今日も、どんな突拍子のない事を聞かれるか分からない。


ママが変な顔をしない様にする為には、少しの間も開けずに嘘を言わなければいけない。
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