私の本音は、あなたの為に。
(“優しい嘘”、今日も頑張ろう)


私は頬を軽く叩き、開いたエレベーターの扉をすり抜けるようにして廊下に出た。



丁度その頃、先程別れたばかりの大ちゃんが足を止め、掛けていたサングラスを外して涙を拭った事は、私は知る由もなかった。



「ただいまー」


玄関の扉を開けた私は、リビングに居るであろうママに向かって呼びかける。


「勇也?おかえりなさいー」


洗面所から、部屋着に着替えたママが姿を現した。


少し早めに入浴をしていたようだ。


「勇也、さっき遊大君が家に来てくれたのよ」


ママは、ドライヤーで髪を乾かしながらそう言った。


「知ってるよ。俺、学校の前で大ちゃんに会ったし」


私は、素早く自分の部屋にバッグを置き、洗面所に戻りながら大声で言う。


「あら、そうなの?」


ママはドライヤーを片付けて、半分乾いた髪の毛をとかし始めた。


「なら、遊大君から何か聞いた?」


「何かって?」


私は、きょとんとして聞き返す。


「またアメリカに戻る事とか…聞いてない?」


「えっ?」


私は鏡越しにママを見ながら、あからさまに首を傾げた。


大ちゃんは、もう全てが終わって日本に帰ってきたものだと思い込んでいたからだ。


「大ちゃん、リハビリとかもう終わったんでしょ?」


「ええ、そうなんだけどね」
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